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いわやん(2000,8,01)
作品は一見、難解なようですが、そうではありません(たぶん)。暗い色調、複雑に入り組み混沌とした構成の絵ですので、はじめは深刻なもの、沈うつなものが描かれているのかと思いますが、よく見るとそうではないのですね。なんというのか、見ていて気分が重苦しくはならないのです。
で、逆に、これはパロディかと疑ってみたりもしたわけですが、そうでもない。そういう茶化したり、斜めから視ているよなところはなくて、一途で、まっすぐなんです。
風化とか闇を多用しているので、それに惑わされて、破壊とか、虚無感とか、そんなものを連想しがちなんですが、この廃墟とも原初ともつかない混沌は、この作家にとって、目指すゴールではないようなのです。
混沌の地平を求めて絵を描いたというのではなくて、たとえていえば、混沌ははじめからあったことで、そこでどう生きるかというところで、この作家はそれを絵にしているのではないか・・・ そんな風に思えてきました。
つまり、このままでは世界は破滅するという、そういう不安感で創作を行う世代ではなくて、もはや破滅は確定されたことで、そこでどう生きるかということをこの作家はテーマにしているのではないかと。
ですから、廃墟とも原初ともつかない混沌は、むしろ、無邪気に描かれている。そこで生まれた者たちにとっては、それも遊び場になるというような。大人にとって、光が隠れ、かたちあるものが消滅することはやりきれないことですが、そこから歩みはじめる子供にとっては、少なくとも感傷はない。悲壮感もない。ただ、これからどうやるかという、好奇心と戸惑いがないまでになったような視線があるだけです。
展覧会場には、ここにも誠実に生きてきた一人の人間がいるという、その足取りが示されていて、それにはまぎれもなく励まされましたが、
しかし、芸術家が未来を予見するとすれば、やはり今の社会は破滅に向かっているのでしょうか。一度、すべてが混沌に戻らなければ、やりなおすことができないのでしょうか。
絵は、混沌を描きながらも無邪気ですが、作家の問いかけは、リアルです。そして、そこに込められたメッセージが、どんな状況になっても、なげやりになったり、感傷的になったりしないで、何をするのかを考えることが大切なんじゃないのかと、そういうものであったとすれば、それもシビアです・・・
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