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いわやん(2006,5,10)
モダンアート展を観るのは、思えば二十年ぶりくらいです。二十年前の印象は強いものではありませんでした。時代遅れの前衛などという言い方がありますが、デザイン的な抽象が多い当時の同展に(あくまでわたしの印象ですが)わたしはそんな感想をもちました。
ところが、今回の印象は、かなり違っていました。すごくおもしろかったのです。視覚的な可能性がさまざまに追求されていました。多くの作家が意欲的に、楽しんで創作していることが一目瞭然に伝わってきました。こういってはなんですが、日展の日本画部門などの平均的なテンションの低さとはまったく大違いです。
もちろん、好みということはあります。同展には、風景画はありません。裸体像も仏画もありません。具体的な物を探せば、何が描いてあるのかわからないものが多いですし、具象はたいていコラージュされていたりデフォルメされているので、そこにも戸惑いを感じる人はおられるでしょう。そのような方には、あまり楽しめないかもしれません。しかし、意味にしばられす、感じたままを楽める方にとっては、興味深い展覧会になるかと思います。
今、「視覚的なおもしろさ」と形容しましたが、そこには人を感動させるようなものはないのか。単なるうわべの技巧が展開されているだけなのか? わたしが会場でまず自問したのは、そのことでした。
確かに、おもしろいけれど、それらの作品はうわべを飾っただけのものなのか、それとも実体があるのかという問いかけです。
会場を一巡し、二巡目する頃に、一つの言葉が思い浮かびました。「ビジョン」です。特別な能力や修練を積んだ人にしてはじめて見ることができる光景。あるいは、特別な状況下において垣間見える、日常では決して見ることのできない光景・・・。新しい宗教やSFなどで、未来や別世界を匂わせる言葉として、時々用いられるのかな。
本展の見事な幾つかの作品には、そんな言葉が似つかわしいと思いました。単なる視覚の快感という以上に、何かが暗示されているような感じがあるのです。どこかで見たことがあるんだけれども思い出せないというような、そんな感覚を覚えることもありましたし、なにかよくわからないけど、ぞくぞくするようなものもありました。あるいは、これは違う世界の入り口ではないかというような感じですね。
さめた見方をすれば、今日は、情報をひじょうに入手しやすく、またコンピューターなどによってさまざまな加工が容易に行える時代であり、その恩恵を受けて視覚表現が異常に発達した・・・と見ることもできるでしょう。そういう面は確かにあると思います。
しかし、やはり注目されるのは、加速度的に発達した視覚表現がどこに辿り着いたのか。これから先、どこへ行こうとしているのかという点です。
いまさらいうまでもないことですが、アートにはその時代を強く反映するという面もあれば、近未来を先取りするような面ももっております。このスリリングな視覚表現は何を映し出しているのでしょうか。何を伝えようとしているのでしょうか・・・
本展は、視覚表現を楽しむことができるとてもよい機会ですが、それに加えて、感覚や思いを非日常的なところにいざなってくれる貴重な機会でもあると思います。
おすすめです!
余談
余計なお世話ですが、本展の入場料は800円です。関係者や出品作家の知人などには招待券が配布されているようですが、一般の者が見ようと思うと800円が必要です。この800円が特別高いとは思いませんが、しかし、この800円がネックになって集客を難しくしているのは確かでしょう。閉鎖的な展覧会の先行きが明るいはずがありません。やはり再検討が必要だと思われます。せめて、一般の観客が関係者の十倍程度は集まるような展覧会に育てていただきたいと思います。内容には、それだけのおもしろさがあるのですから。
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